• 2017.08.09 UP

    映画『東京喰種トーキョーグール』音楽制作レポート

    こんにちは。グランドファンクの茂木英興です。

    映画『東京喰種トーキョーグール』、しつこく僕からもダメ押しで少々。
    ドン・デイビスによる「フィルムスコアリング」が舌を巻く職人技だったという点をお伝えしたく・・・。
    昨今の邦画作品ではなかなか見られないものでした。



    「フィルムスコアリング」とはある程度仕上がった映像に合わせて作曲や編曲を行っていくことで
    古き良きディズニーアニメーションやバーナード・ハーマンの作品群などで確立されてきた作曲技法です。
    映像の中の動き、カット、表情、アクション、などの要素にシンクロしながら
    時間軸に沿って作曲、編曲していくためテンポのコントロールや展開に規則性を持たせることが難しく
    そこをいかに自然に、まさに背景音楽として成り立たせていくか、が作曲家の腕の見せ所になります。
    オペラや舞台音楽(の生演奏)から派生して現代の背景音楽(劇伴)の中で息づいている手法ですが
    ドン・デイビスのそれは、お見事といえる本場ハリウッド・クオリティでした。

    ちなみに時間が許される「映画」や「CM」などではこの「フィルムスコアリング」が可能ですが
    連続ドラマなど、スケジュールがタイトな作品では、作品のイメージやカラーを想像しながら
    映像制作と平行して(ほとんどの場合、映像を見ずに)音楽を作ります。
    そうして仕上がった音楽を選曲家の方に「フィルムスコアリング」したかのごとく
    映像に貼り付けてもらうという手法が現在の主流だったりするので
    映画と連続ドラマでは根本的に音楽の作り方が違うんですよね。
    僕はどちらにも違う魅力があって好きですが!!

    『マトリクス』という作品の特性上、デジタルなイメージを持つドン・デイビスですが
    彼自身は非常にトラディショナルでコンサバティブな作曲家です。
    そして宮地のレポートにもありましたが、本当に彼の真面目さ、熱心さには心を打たれました。
    喰種の赫眼の動きにまで合わせて音符を書き込んでいましたからね。
    精巧な緻密さと圧倒的なオーケストレーションの能力を持つ作家に
    こちらのイメージでディレクションするのは本当に楽しかったです(笑)。
    音の力でみるみる視覚的な世界が変わっていった体験は忘れられません。
    改めて「音楽の底力」を見せつけられた思いです。

    作品イメージの共有は英訳された原作漫画を読んでいただくことからスタートしたのですが
    文化圏やターゲットの年齢層とは全く違う「外人さん」であるドン・デイビスが
    原作を(いい意味で)「誤(理)解」し、その「誤」の部分が
    この実写版ならではのオリジナルに、そして客観的なポイントになって欲しいと僕は考えていました。
    原作を愛しすぎ、内側に入り込みすぎることは、
    こういった実写化の際のアキレス腱でもあると常々思っていたからです。
    その点、ドン・デイビスはさすがの経験を持つ職業作家ならではのバランス感覚の持ち主でした。
    原作をリスペクトしつつ、萩原監督の意向を汲み、ドン・デイビスとしての視点も失わず
    あの独特な世界を現実化=音楽化してくれたと思っています。

    改めて思い切ったキャスティングを許していただいた
    映画『東京喰種トーキョーグール』の全てのスタッフの皆様に心から感謝いたします!!

    文責:茂木英興(音楽プロデューサー)